SNSの誹謗中傷に困っています
私は、劇団に所属し舞台俳優をしていましたが、ある劇団員から「実力もないのに、社長に取り入ってコネで出してもらっている」などとSNSで誹謗中傷の書き込みをされ、ショックと恐怖で仕事ができなくなりました。私は書き込みをした劇団員に対して損害賠償請求することはできますか?
私は、劇団に所属し舞台俳優をしていましたが、ある劇団員から「実力もないのに、社長に取り入ってコネで出してもらっている」などとSNSで誹謗中傷の書き込みをされ、ショックと恐怖で仕事ができなくなりました。私は書き込みをした劇団員に対して損害賠償請求することはできますか?
職場の同僚からSNSで誹謗中傷の書き込みをされた場合、相手に対して刑事上の責任と民事上の責任を問える可能性があります。また、民事上の責任を追及すれば、相手に対して損害賠償請求することも可能です。
本件に関して、まず刑事上の名誉毀損罪(刑法230条1項)を問える可能性があります。
刑法230条
(名誉毀損)
1. 1. 公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する。
名誉棄損罪の条文上の「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した」とは、人の社会的信用を低下させる詳細な事実を、不特定多数の人が認識できるように示すことをいいます。
本件の相談内容に照らしてみると、まず「実力もないのに、社長に取り入ってコネで出してもらっている」旨は、人の社会的信用を低下させる内容の詳細な事実に他なりません。そして、その内容の詳細な事実をSNS上に書き込む行為は、「公然と事実を適示した」にあたります。なぜなら、SNSに書き込みをすれば、基本的にその内容は、不特定多数の人が閲覧できる状態になるからです。
したがって、本件に関する相手の劇団員の行為は、名誉棄損罪にあたると考えられます。
仮に「実力もないのに、社長に取り入ってコネで出してもらっている」旨が、真実であっても、その結論は変わりません。なぜなら、名誉棄損罪の条文上には、「その事実の有無にかかわらず」とあるからです。
また、相談に関する誹謗中傷内容と異なり、相手から「あいつはバカだ」、「早く死ね」などとSNSに書き込みをされた場合、名誉棄損罪ではなく、侮辱罪(刑法231条)の対象になります。
刑法231条
(侮辱)
事実を適示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は過料に処する。
名誉毀損罪も侮辱罪も、人の社会的信用を低下させる行為を罰する規定です。しかし、詳細な事実を示した上で、そのような行為をしたか否かによって、適用される罰則が変わります。
詳細な事実を示して、人の社会的信用を低下させる行為させた場合、名誉毀損罪の対象になります、一方、詳細な事実を示していないときは、侮辱罪の対象となるのです。
相談内容では、「実力もないのに、社長に取り入ってコネで出してもらっている」という詳細な事実を示した上で誹謗中傷をしているため、名誉毀損罪にあたります。これに対して、「あいつはバカだ」、「早く死ね」は詳細な事実ではありません。したがって、このような誹謗中傷を行なった場合は、侮辱罪にあたるのです。
なお、名誉毀損罪も侮辱罪も親告罪にあたります。親告罪とは、刑事裁判を起こすためには、被害者の申立て(刑事告訴)が必要な犯罪のことです。もし、相手の劇団員に対して名誉毀損罪を問いたいのであれば、刑事告訴をしなければなりません。
本件の誹謗中傷行為に関しては、民事上の不法行為による損害賠償(民法709条、710条)を請求できる可能性もあります。
民法709条
(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法710条
(財産以外の損害賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
本件において、あなたは相手の劇団員の誹謗中傷行為でショックを受けたり、恐怖を感じたりしており、それによって精神的な損害が生じています。また、相手の劇団員の誹謗中傷行為は、名誉毀損にあたるので、当然違法な行為です。つまり、相手の劇団員は、違法な行為をしてあなたに精神的な損害を与えているため、不法行為が成立します。そのため、あなたは、加害者に対して、不法行為による損害賠償請求(慰謝料の請求)が可能です。
また、あなたは相手の劇団員の誹謗中傷が原因で、仕事ができなくなっています。それにより、仕事で得られる収入を失っているため、その分の遺失利益を損害賠償として請求できる可能性もあります。
■解決力
本件では、まず相手の劇団員があなたに対して名誉毀損行為したことを明らかにするため、SNS上に書き込まれた誹謗中傷の画像を保存しておきましょう。相手の劇団員に対して、名誉毀損などの権利主張をするには、とにかく証拠が必要だからです。
それから、SNS上にあなたの誹謗中傷が書き込まれたままの状態にしておくと、インターネット上で拡散してしまう可能性もあります。そのため、相手の劇団員本人に削除を依頼するようにしましょう。もし、相手の劇団員がSNS上の書き込みの削除に応じない場合、そのSNSの運営会社に連絡して対処してもらいます。書き込みの内容が名誉毀損など法に違反するものである場合、SNSの運用会社側で対応してもらえるのが通常です。
また、法務局では、名誉毀損などの人権侵害行為の相談を受け付けているので、こちらの機関を利用して対処するのも一つの方法です。
相手の劇団員のSNS上による誹謗中傷行為がどうしても許せなくて損害賠償(慰謝料)を請求したいのであれば、内相証明郵便でその旨を相手に請求しましょう。もし、相手の劇団員が内相証明郵便による請求に応じない場合、裁判所に訴訟を起こして請求することになります。
慰謝料請求と同時に相手の劇団員に対する処罰を求めたいのであれば、警察に相談した上で刑事告訴をするといいでしょう。